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2022トップインタビュー
長野計器株式会社 代表取締役社長 佐藤正継氏「持続的成長へさらなる挑戦」聞き手は高松宏之編集部長 |
日本計量新報 2022年1月1日 (3363・64・65号)14〜15面掲載
◎2022年3月期も増収増益に
――貴社の現況をお聞かせください。
■前年同期比で増収増益 2021年11月12日に2022年3月期第2四半期決算を発表いたしました。 長野計器の第2四半期の「連結業績」ですが、売上高は265億1100万円、前年同期比で48億6800万円の増収。営業利益は18億円、前年同期比で13億9000万円の増益。経常利益は19億3700万円、前年同期比で15億5200万円の増益。親会社株主に帰属する四半期純利益は11億8700万円、前年同期比で11億6300万円の増益となります。 当第2四半期は前年同期比で増収増益でした。
■前年は需要が激減
前年同期では、新型コロナウイルス感染拡大により経済活動が停滞し、民間設備投資の延期や凍結により需要が急激に減速しました。
■前年度後半から需要が持ち直す
しかし、その後、前年度後半より半導体関連を中心に需要の持ち直しが進みました。当期に入ってからは、経済活動の回復に伴い、半導体関連以外の設備投資需要についても改善が進みました。
■圧力センサが大幅増
セグメン卜別では圧力センサの売上高が前年同期比で大幅に増加、営業利益でも圧力計、圧力センサが前年同期比で大幅な増益となりました。
米国子会社でエネルギー需要が回復し、主力のプロセス関連、産業機械関連を中心に売上が増加しました。自動車用圧力センサは主要顧客の需要減少に伴い、売上が減少しましたが、国内では、低迷していた設備投資需要が回復し、中でも半導体産業および産業機械・建設機械関連の売上が大きく増加しました。
前年同期で自動車関連需要の減速影響により低迷した計測制御機器セグメントのリーク検査装置やダイカスト製品の売上も増加しました。
損益面でも、売上の増加に伴い、営業利益が増加しています。
■業績予想を上方修正 当第2四半期決算期までの業績動向を踏まえて、当社は2021年9月24日付で、通期業績予想の見直しを行いました。
■通期売上予想は526億円 その結果、売上高は525億9000万円、前期比で77億8500万円の増収。営業利益は33億9000万円、前期比で19億4800万円の増益。経常利益は34億8000万円、前期比で19億6800万円の増益。親会社株主に帰属する当期純利益は23億4000万円、前期比で14億7500万円の増益予想としています。
■受注状況は堅調に推移 第3四半期以降も、新型コロナウイルスによる新規感染者数も9月以降に落ち着きを見せる中、経済活動が正常化に向かうことが期待されています。
当社の受注状況は引き続き堅調に推移しており、今のところ、この流れを減速させるような要素は出てきていません。
■電子部品の調達難や原材料高騰の影響などが懸念材料
しかし、自動車メーカ各社が増産により、部品在庫を確保する動きがみられることから、当社においては、電子部品を主体とする部材の調達難や原材料高騰の影響など、生産面においては深刻な問題があります。
過去にこういう例はなかったと記憶しています。今までは、注文が入りすぎて生産が間に合わないということはありました。しかし、今回の場合は、部品がないために生産できない状況が続いています。ですから、日を追うごとに受注残が増えている状況です。
こうした懸念事項には、全社を挙げて対策を講じていますが、早期解消が流動的かつ不透明な状況でもあるため、今後の業績見通しについては、もうしばらく慎重に見ていきたいと考えています。
■設備投資は倍近く 設備投資につきましては、31億円ということで、例年の倍近くの投資になりますが、新製品の研究開発、生産能力向上のほか、老朽化設備の更新などを予定しています。
■期末配当は29円を予定 2022年3月期の期末配当は、当初11円を予定していましたが、2021年9月24日に公表した当期業績予想および11月12日時点の利益水準ならびに財務状況と配当支給額とのバランスを勘案した結果、普通配当を12円に変更するとともに、特別配当6円を加え、18円に修正させていただきました。 これにより、中間配当金11円と合わせた年間配当金は、29円で予定しています。 ◎景気に左右されない企業体質の強化
――今後の事業戦略をお聞かせください。
■安定的かつ継続的に配当する 先ほども申し上げましたが、半導体業界をはじめ、建機、FA・産業機械向け製品が好調に推移し、2022年3月期の連結業績予想の売上高は、2021年9月に修正しました通り、525億9000万円を見込んでいます。配当の変更もこれを反映したものです。
電子部品の入手難、原材料の高騰など多くの課題がありますが、将来の経営基盤強化のための内部留保の充実もはかりつつ、安定的かつ継続的に配当を行うことを基本方針としています。
■「プライム市場」へ 2021年9月24日の取締役会で「プライム市場」の選択を決議し、10月、東京証券取引所への選択申請手続を実施し、受理されました。
より一層、気を引き締めて、グループ一丸となり、グローバル市場においても、圧力計測事業におけるリーディングカンパニーとして、今後も取り組んでいきます。
■「景気に左右されない企業体質」を構築 2020年5月に発表した中期経営計画の取組状況についてご説明します。
中期経営計画は、「成長に向けた新たな挑戦」として、経営ビジョン「収益力強化と事業構造改革により持続的成長を目指す」を掲げています。
「収益力の強化」としては、製品価格の改定、機種統廃合の推進、付加価値の高い製品開発に、注力しています。 また、「業務効率の改善」として、「IoT化の推進」など、グループとしての効率を重視した「事業構造改革」を進めることにより、「景気に左右されない企業体質」を構築すべく取り組んでいます。
全てにぶれることなく、来期までこの取組を踏襲して活動してまいります。
■4つの成長戦略 基本は、4つの成長戦略により構成しています。
1つ目は「既存事業の競争力強化」
2つ目は「グローバル戦略の強化」
3つ目は「新たな事業領域の拡大」
4つ目は「経営基盤の強化」です。 ◎水素利用に関わる圧力計測に注力
まず、成長戦略の一環として当社が注力する市場は、脱炭素社会の実現に向けた水素利用に関わる圧力計測があります。
■「国際水素・燃料電池展」に出展 緊急事態宣言の解除と同時期ではありましたが、10月に東京ビッグサイトで開催された「国際水素・燃料電池展」に出展しました。
水素・アンモニア用途の市場においては世界中どこでも長野計器製品を利用していただけるということを強くアピールすることができました。
お陰様で、多くの方にご来場いただき、水素、アンモニア用の製品に限らず、ワイヤレス計測器シリーズが、省人化に貢献できる製品として興味を示され、反響の大きさを感じました。
■あらゆる水素の圧力計測に応える
当社が保有する圧力計測技術は、カーボンニュートラルの実現に向け必須要素である、「水素をつくる・はこぶ・ためる・つかう」これらすべてのカテゴリーに大きく関わっています。
各カテゴリに応じた技術革新は今後さらに進みますが、当社がこれまで培ってきた経験と実績を活かして「水素の圧力計測に関しては、世界のあらゆる場面において当社グループがお応えできるよう」一丸となって、取り組んでまいります。
水素利用に関しては、燃料電池が着目されていますが、水素やアンモニアの直接燃焼に関する技術や産業の進展にも大いに期待しています。長野計器はそれらのすべてに対応できると自負しています。
■水素市場にグローバル製品を展開
アメリカにある当社子会社であるアメリカのアッシュクロフト(Ashcroft)が2021年5月に、新製品「E2X(防爆型圧力センサ)」を発売しました。
■防爆型の圧力センサ
本製品は水素用途はもちろん、爆発の危険性がある環境で使用する防爆型の圧力センサです。
当社が進める「地産地消」を取り入れ、長野計器がコアとなるセンサエレメントを供給し、アッシュクロフトで組み立てます。 ■水素市場をにらむ
アッシュクロフトが先行して販売を開始しましたが、アメリカ本土における水素ステーションをはじめ、水素コンプレッサのメーカにも既に納入を開始しており、非常に好評を頂いています。
アメリカばかりでなく世界各国のユーザ向けに、このアッシュクロフトの製品を販売し、世界のどこでも使える製品としてPRしていきたいと考えています。
◎半導体業界向け製品が好調
半導体業界向け製品が好調です。 第2四半期3カ月間の実績をみますと、前年同期間と比較して1・8倍の売上高となっています。 当社はこれまで30年以上に渡りアジア地域を中心に展開、多くの実績を積んできました。 台湾の世界的な半導体メーカであるTSMCが日本やアメリカに工場を建設するということが話題になりました。TSMCは、長野計器の大口顧客であるため、今後に期待したいところです。
半導体業界は、世界規模で拡大しておりますが、アメリカ、ヨーロッパにも大手半導体製造装置メーカが存在しています。
■半導体市場にもアッシュクロフトで攻勢かける
これまで石油化学を中心とするプラント関連製品を主力にアッシュクロフトは事業展開していましたが、半導体市場に積極的に攻勢をかけることにより、アメリカやヨーロッパは、まだまだ伸びる市場であると考えています。
当社製品は、半導体製造の前工程を中心に、多岐にわたってご利用頂いています。
半導体の製造工程以外においても、クリーンルームの室圧監視、ガス配管をはじめ、シリンダーキャビネットなど、圧力計測の用途は多数存在しています。 ◎薬液・純水計測に用いる圧力計測器を強化
半導体産業におけるウエハーの洗浄や、研磨装置などに使用する「薬液・純水計測に用いる圧力計測器の品揃え強化」と、「グローバル戦略」についてお話します。
長野計器の半導体産業向け圧力センサは、ガス用と薬液用に大別されますが、大半がガス用のセンサで占めています。
半導体の技術革新とともに、より一層のクリーン度が求められておりますが、当社もウエットプロセスと呼ばれる市場要求に応えるために、薬液・純水用途の「製品開発」および、需要拡大をにらんだ「設備投資」を積極的に進めています。
これら製品はアッシュクロフトにおいても販売を開始しています。
当社の納入実績を踏まえながら半導体ウエットプロセスにも、グループ一丸でグローバル展開を推し進めます。
薬液・純水用途をガス用と同等ぐらいまでにできれば、半導体に関わる圧力計測分野において長野計器が世界一になることを目指します。。今まで以上に半導体分野での事業を拡大していきたいと考えています。 ◎グローバルネットワークを活かした「地産地消」を推進
■アッシュクロフトのメキシコ工場が稼働 メキシコにあるアッシュクロフトのケレタロ(Queretaro)工場が、いよいよ稼働しました。
ケレタロ工場は、北米を中心とした市場にローコスト製品を供給する製造拠点として、機械式圧力計と温度計の生産を開始しました。
■圧力センサの新製品を投入予定
当社は、グローバルネットワークを活かした「地産地消」を進めています。圧力センサ素子を日本で生産し、ケレタロ工場で組み立てる新製品を投入していきます。戦略製品となる圧力センサは、2022年4月の生産開始に向け、現在準備を進めています。
■5年後を目途に50億円増収めざす
これまで圧力計を主軸としてきたアッシュクロフトですが、圧力センサメーカとしてのブランドを確立することを視野に半導体及び産業機械向け圧力センサの目標売上高を、5年後には50億円の増収を目指し、取り組んでいきます。 ◎新たな事業領域の拡大
次に、成長戦略の3つ目である新たな事業領域の拡大についてお話しします。
■「極低温から超高温」まで対応
当社がこれまで開発してきた「光学方式」を用い、「幅広い温度条件下で圧力計測を可能にする」センサへと展開していきます。
将来的には、極低温から超高温の環境下においても、安定した圧力計測が可能なセンサとして、あらゆる産業、新たな用途への利用を提案していきます。
具体的には、現在の「極微圧から超高圧」の圧力計測領域に、新たに「極低温から超高温」の条件を加え、マイナス250℃〜400℃くらいまでの極限環境下においても安定した圧力計測ができることを目指しています。マイナス250℃というのは液化水素関連、400℃というのは繊維関連を意識しています。
■光学式の圧力センサを開発
当社は、従来の計測領域で水銀を使用した圧力計をつくっていました。しかし、水俣条約で原則、水銀の使用が禁止されました。例外的に水銀の使用が認められているものもありますが、当社では新しく水銀を使用しない光学式の圧力センサを開発しており、性能的にも水銀使用のセンサと遜色がありません。
■厳しい環境でも圧力を測ることができるセンサを開発
長野計器は、厳しい環境でも圧力を測ることができるセンサを開発していきます。現在、非常に苛酷な環境下においても正確に圧力が測れる製品づくりに取り組んでいます。これが圧力計測の事業領域の拡大になります。
先ほど申し上げたウェット向けの半導体においても、これも拡大領域ですし、今回の光学式の圧力センサも新しい領域の1つになります。 ◎経営基盤を強化
最後に、経営基盤の強化に関する取組です。
企業理念である「一芸を極めて世界に挑戦」、圧力計測における「安全・安心・信頼」を基軸とした収益力の強化と事業構造改革により、持続的成長を目指していきます。
競争環境の変化に打ち勝つための経営基盤の強化と、環境保全活動、地域社会への貢献を両立させた事業活動に取り組みます。
■SDGsへの取組 長野計器は今まで約15年にわたって、環境マネジメントシステム(EMS)について規定した国際規格であるISO14001規格に則って企業活動をしてきました。 ですから、いよいよ本格化してくるSDGsの取組にも非常にタイミングよく、スムーズに入ることができます。これに向けて本格的なESG経営を構築してまいります。
■安全安心で信頼をいただける製品づくり
そういう基盤のもとに、安全安心で信頼をいただける製品づくりを進めていきたいと考えています。
■圧力計測の推進と新しい柱の確立
会社創立以来、当社は圧力計測に特化してきましたが、この圧力計測は社会に不可欠であり未来永劫に続く事業だと考えていますので、引き続き推進していきます。また、先ほども申しました、どうしても新しい柱を作っていきたいということでは、今回の新製品領域、M&Aも含めて、ソフト開発にも力を入れながら、社会に貢献できる製品づくりに励んでまいります。 ◎2023年3月期には、売上高560億円目指す
2020年度からスタートした中期経営計画も折り返しを過ぎました。
産業界は、いずれの国、地域においても電子部品の入手難・原材料の高騰が経済活動の回復に対する懸念材料になっています。 このような環境下ではありますが、最終年度である2023年3月期には、連結で売上高560億円、営業利益率7%以上、ROE10%の確保を目指し、当初の計画通りの目標に向けて邁進してまいります。
■景気に左右されない企業体質の更なる強化 そして2025年度には、売上高650億円の達成に向け、グループ一丸となって取り組み、「産業界において景気に左右されない企業体質の更なる強化」を図っていきます。
■2025年度には650億円の売上めざす 景気には不透明な部分もありますが、第3の柱になるようなものを確立して、なんとしても2025年度には650億円の売上を達成することに力を注いでいきます。
――ありがとうございました。
◎長野計器会社概要
【代表者】代表取締役社長 佐藤正継
【資本金】43億8000万円
【商号】長野計器株式会社(NAGANO
KEIKI CO.,LTD.)
【創業】1896年(明治29年)5月1日
【設立】1948年(昭和23年)12月21日
【本社】〒143―8544、東京都大田区東馬込一丁目30番4号、電話03―3776―5311、FAX03―3776―5320
【年商】連結448億500万円(2020年3月期)
【従業員数】2297名(2021年3月31日現在連結ベース)
【事業内容】圧力計事業、圧力センサ事業、計測制御機器事業、ダイカスト事業
【長野計器ホームページ】https://www.naganokeiki.co.jp
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