「最新の天びん特集」では、現在多く使用されている天びんのしくみや校正などについて多角的に解説し、天びんの「今」に迫る。第1集である今回は、電子はかり及び天びんの荷重センサーに用いられている各種方式の基本原理と用途を概説。第2集では、正しい測定方法とJCSS校正、また、最近重視されている防塵防水仕様について触れる。
電子天びんの基本原理
荷重センサーはそれぞれに特性があり、はかり及び天びんの用途によって選定される。
電子天びんの主な方式には、ロードセル式、音叉振動方式、電磁力平衡方式などがある。
このほか、電気式はかりに多用されている荷重センサーとしては、弦振動式、静電容量式など。
メーカーも研究機関との共同開発に積極的で、各方式とも技術改良がみられる。最近は、防塵性・防水性を高めた機種が増え、使い勝手が向上している。パソコンへの接続は、ほとんど標準仕様となってきた。また、はかる手順を日本語で表示するなど、ユーザーの使いやすさを重視した製品も増え、各メーカーが独自の特色を打ち出している。
ロードセル式
ひずみゲージ式ロードセル(ストレーンゲージ式ロードセル、一般にはロードセルと呼んでいる)は、質量あるいは力計測に多用されている荷重センサーである。起歪体そのものがはかり機構を有していることから構造が簡潔であり、応用性も高い。
ロードセルは、ひずみゲージの変形する性質を利用したもので、抵抗値の変化を荷重との関数として取り出して、質量や力を求める。
小さな荷重でも大きなゆがみを起こす形状のものを用いると精密な測定が可能になる。振動の激しい場所等の設置環境に対応した構造のものもある。
起歪体の材料として一般には、ニッケルクロムモリブデン鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金などがある。
機械加工技術の発達は、起歪体の構造の自由さをもたらし、ひずみゲージ式ロードセル荷重センサーの用途を広げている。ひずみゲージの構造、電気的性質の発達および貼り付け方法の技術進歩も著しい。
起歪体とそれに貼り付けられたひずみゲージによって発生する荷重信号は、マイクロコンピューター等によって直線性が確保される。電気回路内の温度変化、起歪体やひずみゲージの温度変化に伴う信号変動を補正する技術等の発達により、はかりや力計として普通に用いる場合には不満のない性能を確保できるようになった。
ひょう量対最小表示では、3万分の1程度を実現するようになった。3000分の1程度であれば安定的に実現する。ひょう量値の大きなものでは100トン以上のトラック用はかりに使われる。また電子天びんなどの呼称を与えられる精密計量用のはかりにもこの方式が用いられている。
ロードセルとは、本来は荷重を受けて何らかの信号を出すユニットを指す用語である。したがってサーボシステムとしてまとまった電磁力平衡式も金属音叉振動式も、弦振動式も、静電容量式も、圧電式も、磁歪式もジャイロ式も、また油圧式の荷重計も、本来の呼び名としてはロードセルになるのだが、日本ではロードセルといえばひずみゲージ式ロードセル(ストレーンゲージ式ロードセル)ということになっている。
ひずみゲージ式ロードセルの基本原理は次のとおり。
ロードセルの表面にはひずみゲージが貼り付けられており、力を加えると、ロードセルとともにひずみゲージも変形する。ひずみゲージが変形すると抵抗値が変化する。このときロードセルに電圧を加えると、出力端子から抵抗値の変化に比例する電圧が出力される。こうして、力を電気信号に変換して測定値を算出する。抵抗の変化はそのままでは荷重に完全に比例するわけではないので、電気回路を工夫して荷重に比例するようにする。比例の度合いが精度であり、半導体技術の発達、優れたCPUの開発が比例の度合いを大きく高めている。電気信号から出る表示は指針の振れとしても取り出せるが、一般にはデジタル表示される。デジタル表示する場合にはA/D変換器を用いる。
これらのことからロードセルは、(1)精度の高さをそれほど要求しない安価で小型のはかり、(2)大型の天びん(はかり)の質量センサとして活用されている。また、性能の向上で天びんにも多く使われ、安価で使いやすい天びんはほとんどロードセル式センサーを使用している。技術革新により高精度のものが登場しているが、構造と原理からその精度には限界がある。
最近のロードセルは回路等の工夫で温度ドリフトを小さくしたり、防さび、防水、防爆、耐薬品など耐環境性を強化した製品などが登場している。
他の方式とのハイブリッド型も
従来のロードセルと電子回路を一体化したデジタルロードセルも登場している。デジタルロードセルは、ロードセル本体に増幅部、A/D変換部、演算部を組み込み、デジタル信号を直接出力するもの。指示計、ロードセルケーブルが温度影響を受けないので温度特性がよく、高精度、高安定を実現している。ひずみゲージ式ロードセルと電磁力平衡式の支点、ビームを組み合わせたハイブリッドタイプの電子天びんを開発したメーカーもある。高分解能の電磁平衡式とロードセル起歪体の高剛性という両者の長所を組み合わせたものである。応答性の早さ、高分解能、小型化、コストダウン、信頼性を実現している。
音叉振動式荷重センサー
音叉振動式荷重センサーは1983年日本で開発された。実用に供されてから20年以上の月日を経て、大きな実績と信頼を得るに至っている。
金属音叉は、両端に加えられた荷重の大きさに比例して、振動数が変化する。金属音叉振動方式はかりおよび天びんは、この原理を応用し、金属捧や弦の固有振動が、加えられた張力や圧縮力によって変化する現象を利用して荷重を求める。
センサーは金属製の音叉とこれに荷重を伝達するリンク機構だけで構成される。荷重はデジタル量である振動数として直接取り出されるため、A/D変換器が不要である。
金属音叉式電子はかりは、比較的最近開発された技術だが、分解能は電磁式はかりに近く、ロードセルを凌駕しており、経年変化が少ないなど抜群の安定性を備えている。年々改良されて高精度の製品が開発されており、最近では精度でも電磁力平衡方式にせまるものが開発されている。
音叉センサの優れた特性
(1)再現性=金属の歪みを利用しない方式で再現性に優れる。
(2)直線性=もともと得られる信号は非直線だが、安定しているため直線化の計算をマイクロコンピュータが行い、ノンリニアを極小化できる。
(3)温度特性=メカニズムの大半が単一の恒弾性材料の使用により構成されているため温度特性に優れる。
(4)発熱が少ない=センサーや回路の消費電力が少なく、発熱は微少であるため外部機構に与える影響が少ない。また電源投入時のウォーミングアップも不要。
(5)長期安定性=誤差要因が少ないため、特に長期安定性に優れる。
日本の文部省(現文部科学省)が2000年にハワイに設置した世界最大級の反射型天体望遠鏡「すばる」にも、音叉センサー技術が採用された。
口径8・3mという、一枚ガラスでできた巨大な反射鏡面の形状を保持するために、システム内のセンサーに金属音叉式荷重センサーが使用されている。これは、精密さ、安定性の2つの特性によるものである。261本の形状保持システムの中には金属音叉荷重センサーが設置されている。100万分の1、相対測定精度で30万分の1を超えている。
金属音叉振動式は、ロードセルのようなひずみ計ではなく力計であり、測定範囲内で実際に発生する振動子の応力やひずみが小さいため、ヒステリシスが少なく再現性に優れている。
この特性を生かし、電子天びん、電子はかり使用上の困難とされていた、爆発性雰囲気下で使用を可能にする本質安全防爆構造の電子はかりとして、日本で初めて労働省(現厚生労働省)の認定を受けている。また、高精度で広い測定レンジを利用して、書状から小包までを1台でカバーできる郵便料金はかりもつくられている。
MMTS音叉式センサー
MMTS(Mono-Metal Tuning-Fork Sensor)は、はかりの基本性能を更にグレードアップした。60万分の1の高分解能が得られノイズに強く高速応答とチラツキの少ない安定した表示を可能にしている。省エネ設計とシンプルな機能が、優れた長期安定性と抜群の耐久性を実現した。
不確かさに影響する分解能、長期安定性を向上するために、一体型音叉式力センサーが開発されたのである。双音叉振動子を取り込んだ構造になっており、組み立て時の残留応力やひずみによる再現性低下を解決した。軸方向の応力だけが双音叉振動子に作用するので、精度も向上している。実験結果も、感度の安定性が6カ月で3・0×10−5以下というすぐれた数値となった。
JIS規格対応の天びんも
JIS規格に対応した音叉式天びんも登場し、音叉式に対する信頼度は上がっている。JIS精度は1級もしくは2級。
音叉式の分析天びんが登場
さらに最近では、音叉式の分析天びんが登場。
これまで、220万分の1の計量性能(分解能)は、すべて電磁力平衡方式による電子天びんに限られていた。しかし2007年、世界で初めて電磁力平衡方式以外のセンサーを搭載し220万分の1の計量性能(分解能)を実現する音叉式分析天びんが開発された。
ここに至って、電磁力平衡式と音叉式の機能的な境界は徐々に曖昧になってきていると言える。
日本機械学会関東支部賞
こうした動きには、外部からの評価も高い。
新光電子(株)は2009年3月、分析天びんの音叉センサー開発により、「2008年度日本機械学会関東支部賞」の技術賞を受賞した。
感度が高く外部振動に強い音叉振動子形状および信号処理方法を考案し、高精度で高安定な計測特性を持つ革新的な音叉センサーを開発・実用化したことが認められた。
電磁力平衡方式
電磁力平衡方式(電磁力補償方式、電磁式)は、荷重センサーとして精度面と安定性の両面で定評を得ており、精密級の電子天びん(あるいは電子はかり)の多くはこの方式を用いている。電子天びんと呼ばれているものに、ひずみゲージ式ロードセルを使ったものが広く出回るようになったので、一般使用者には区別がつけがたい状況にある。計測器としての安定性を含めた精度等級としては、電磁力平衡式のロードセル式に対する上位性に変化はない。
電磁力平衡方式は、機械式的なバランス機構に、位置検出器と電磁石を用いて荷重をつりあわせる機構のはかりである。荷重をつりあわせるときに要するフォースコイルに流れた電流の大きさから荷重の値(質量)を求める。
電磁力平衡方式は零位法で荷重や質量を求めており、ロードセル方式は変位法になる。電磁式は天びん式であり、ロードセル式はばね式はかりと同じといえば分かりやすい。天びん式は既知の量とつり合わせて測定し、ばね式は既知の量と比例関係にあるばねの伸びの量によって測定する。
言い換えれば、変位法の一例であるばね式はかりは、ばねの伸び率など測定量をこれと一定の関係にある他の量に置きかえて、指針などで直接的な変位として読み取る方式である。ロードセルはかりも変位法である。
零位法は、未知量を既知の量とつりあわせるものであり、旧来から平衡式として馴染みが深いものは機械式の天びんや台はかり、振り子式はかりなどである。
平衡式のはかりに比べ、電磁力平衡方式の天びんは、自動的に荷重とつりあわせ質量を表示することで、その点を解消している。電子天びんが普及した原因の一つは測定時の分銅の載せ降ろしといった作業の煩わしさを解消したことによる。
電子天びんといえば初期は電磁力平衡式がすべてであった。計測機器の技術改良の多くは電子技術の進歩によるところが多いが、電磁力平衡式天びんの性能向上に大きく寄与しているのが機械加工技術の発展である。
つり合わせ機構とロバーバル機構を構成しなくてはならない電磁力平衡方式の電子天びんは、構造が複雑である。そのため、数十万分の一という高精度を実現するためには、バネ部品など個々の部品の吟味はもちろんのこと、細部にわたる微妙な組み立て調整作業が必要であった。また、部品ごとの膨張係数の違いによる温度特性誤差等構造的問題点があった。
高精度・高安定のワンブロック構造
上記の弱点を克服するものとして開発されたのが、「ユニブロック」「モノブロック」「モノリスィック」などと名付けられた、ワンブロック構造のひょう量セルである。
メカニカルな稼働部分を高度切削加工技術によりワンブロックにすることで、部品点数が大幅に削減された。ワンブロック構造は大変なすぐれもので、縦方向の衝撃に加えて横方向の衝撃に対する耐久力を飛躍的に向上させている。それは同時に性能の安定化をもたらし、測定分解能など、電子天びんの性能・品質を大きく向上させた。
結果、質量測定は測定器自身の能力から離れ、使用する環境条件から受ける誤差要件が問題となる領域に突入している。
天びんの誤差要因として、天びん自体の温度変化あるいは器内各部の温度分布などがある。力平衡方式の場合は、つりあわせのために磁石とフォースコイルとが組み合わされており、これが温度変化の原因となって測定に介在するのだが、自動的に取り除く技術がほぼ確立されている。
設置環境による誤差要因は温度、湿度、対流、静電気、振動、空気密度と関連しての浮力、磁気、電磁波、重力の加速度など項目が多い。またビルの高層階に設置した場合には、風による揺れが誤差要因になった事例も報告されている。
静電気による誤差を避けるために、天びん専用の静電気除去装置も開発されている。静電気除去装置には直流電圧式のものと交流電圧式のものがあり、試料や容器に帯電した静電気を軽減・除去して計量を安定化させる。
使いやすさに工夫
ほかにも、最近では、使いやすさにさまざまな工夫が見られる機種が出てきた。
計測の手順を日本語で指示する製品は、カタカナ表示によるタッチスクリーンで簡単に操作でき、ユーザーの負担を軽減している。また、計測データをWindowsに直結させる機能、タイマー内蔵で指定した時刻に自動校正できる機能、測定中に反応速度を調整できる機能なども登場している。
その他
電子微量天びん
電子天びんに用いられている方式としていわゆる電子微量天びんがある。
トートバンドによって支えられた可動コイル形電流計の指針を両方にのばした形でさおがつくられ、両端に計量皿が載せられた構造になっている。
皿に試料をのせると一方に傾くが、するとコイルに試料の重量に対応した電流が流れ、さおはバランスされる。この時の電流値から試料の質量を求める。試料と反対側の皿に分銅をのせ、たとえば0・1グラムまでは機械的に質量を求め、それ以下の微量範囲は電気的に測定する仕組みになっている。電気的な測定範囲は1ミリグラム〜1グラムくらいの各種レンジが切り換えによって得られ、最高0・1マイクログラム程度まで測定できる。このクラスの超精密天びんは、だれでもが手軽に質量測定に用いることは不可能である。0・1マイクログラム程度の質量測定は、測定環境をシビアに整えなくてはならず、作業者自体も空気の浮力の補正をはじめ、質量測定についての専門的な知識や技術を要求される。この方式を選択して使用する分野は極めて限られている。
弦振動式
原理の基本は、金属音叉振動方式の解説で記述されていることと同じである。電気振動弦(バイブレーションワイヤ)を荷重センサとした工業用のはかりも開発され、精度3000分の1を実現しているが、大きな需要を確保するまでには至っていない。大きな需要を獲得したのが弦振動式センサを使用したはかりで、低価格でデジタル表示を実現した上皿台はかりと吊りはかりなどとして成功している。
静電容量方式
駆動電流が小さいことから乾電池電源で3000時間以上もの連続使用を可能にしている。荷重の変化をコンデンサーの極板のすき間の変化に変えて電子信号を取り出す方式。デジタル式の体重計、料理用はかり、台はかり等として製品化され、急速に普及している。
一般的な製品の精度は500分の1程度だが、もっと精度の高いものもある。この静電容量式ロードセルもA/D変換器が不要である。駆動電流が小さいことを利用して、太陽電池を使用したはかりもこの方式によって実現されている。
磁わい式
磁わい方式は、透磁率の高い弾性体に荷重を加えると、ストレスで透磁性が変化する原理を利用したもの。弾性体に穴をあけ2つのコイルを入れ、2次側のコイルの誘導電圧が荷重に比例するよう構成されており、非常に大きな荷重を測定するような特殊領域で使用されている。 |