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日本計量新報 2018年1月1日 (3177号)

技術革新の進展と炊飯器に組み込まれたハカリ

福田康夫首相(当時)は二酸化炭素削減のためにLED照明を使うことを記者会見で提唱した。LEDランプが高価な時代であったから辻褄合わせのための論理を役人に吹き込まれたことが丸見えであった。菅直人首相(当時)は山林管理に枝打ち機器などを使うことを記者会見の場で話したが、これも役人の囁(ささや)きを聞いてのことのようであった。LED照明はその後に急激に普及した。テレビの画面のバックライトとしても使われている。照明分野でのLEDの普及は予測を超える。LED照明の価格低減は電力使用量削減をもたらすのということがその限界値を超越したためでもある。

 山林管理のための農業機械の普及は進まない。外材価格に太刀打ちできない建材としての日本の木材であるからだ。山林労働をする人が少なくなっているから自動枝打ち機は少しずつ増える。ドイツなどでは太い木材を切り運ぶ重機が普及している。平坦な山林での伐採作業であるからだ。日本の山林は急峻である。対処の仕方が難しい。田畑を耕作するためのトラクターなど農業機械は普及している。山林分野に比べて従事者が多いことも要因の一つであろう。LED照明の普及は対象が全世帯、全作業所・事業所である。

 ハカリで計って一定量にするための計量器は製造分野では当たり前のように使われている。液体を一定量にする、粉体を一定量にする、混ぜ合わせてある性質にする、計って組み合わせて用途を満足させるために計量器が使われる。このような計量器は設備と計量器部分の境界が不明瞭なことが多い。上手に計ることが目的であるからハカリ部分を分離することに意味がないからだ。こうした分野に計量法の政省令改正は切り込んで検定を実施する。一筋縄ではいかないことがみえている。

 外食チェーンではライスの量を何グラムということで料理をだす。お釜やジャーから200グラムほどのライスをすくい取ってハカリに載せて確認する。普通盛り、大盛り、特盛りという言い方があり、150グラム、200グラム、300グラム、400グラムとしてだすところもある。ライスの計り取りには家庭用の計りが使われることが多い。生活用品のメーカーのアイリスオーヤマの炊飯器は、ライスのすくい取り量の質量がわかることをテレビで宣伝している。素晴らしいアイデアであり凄いことをしたものだ。

 ライスの量を決めて計って売ることは計量法では取引に当たる。取引のためには検定付のハカリを使って計量することが計量法に規定されている。持ち帰り用の弁当を販売する外食チェーンのライスの計量に家庭用のハカリを使うことは計量法の規定に適合しない。家庭用より条件を厳しい検定付のハカリの使用の普及を促すとよい。アイリスオーヤマのハカリ付き炊飯器による家庭でのライスの計り取りは取引にも証明にも該当しない。取引も証明も商行為に関係しての概念であるからだ。

日本計量新報 2018年1月14日 (3178号)

8割が高等教育を受ける現代の日本

「東京で就学のため暮らす費用は4年間で1000万円になる」ということが東京経済大学の後藤^四郎(えいしろう)理事長を同大学に訪ねたおりに最初にでた言葉である。同大学は東京都国分寺市南町1‐7‐34に本部をおく私立大学で、2017年5月1日現在の学生数は6743名(設立は1949年)。国分寺キャンパス(5万9131平方メートル)と武蔵村山キャンパス(7万9541.05平方メートル)がある。

 建学は1898(明治31)年で大倉喜八郎、商業学校設立趣意書を公表。一代で財を成した豪商の大倉喜八郎は、西洋諸国と並ぶ商業の知識・道徳を備える人材を育てるため、私財を投ずることを決意、渋沢栄一、渡辺洪基、石黒忠悳の名による商業学校設立の趣意書を公表。1900(明治33)年9月1日に大倉商業学校開校を東京・赤坂葵町に開校。翌年1月、夜学専修科を開校。1919(大正8)年、高等商業学校への昇格、認可される。大倉高等商業学校となり、名門高商として全国にその名を馳せてきた。

 文部科学省発表の進学率などの2016(平成28)年5月1日現在の資料は次のとおり。大学・短大進学率(過年度卒含む)は56.8%(平成22年度と同率)、大学(学部)進学率(過年度卒含む)は52・0%でともに過去最高。専門学校進学率(過年度卒含む)は22.3%。高等教育機関進学率(過年度卒含む)は80.0%で過去最高(平成26年度と同率)。大学在学者数が287万4千人で,前年度より1万3千人増加している。

 私立学校に在学する学生・生徒などの割合は、大学・短大で約8割を占めており、それぞれが建学の精神に基づく個性豊かな活動をしている。というのは文科省の説明である。
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 経常費補助を中心とする私学助成事業、日本私立学校振興・共済事業団における貸付事業、税制上の特例措置、学校法人の経営改善支援が国の私学支援の内容だ。国公立大学の授業料は既に私学並みになっているから私学であるから学生生活が金銭面で窮屈だという単純な理屈はなりたたない。4年間で1000万円の負担をする親元は苦しい家計となり学生自身もアルバイト収入に依存するから勉学の時間が少なくなる。大学とはこのような事情になっている。

 後藤^四郎理事長は東京経済大学を卒業して佐藤計量器製作所で働き社長に就任するなどして手腕を発揮してきた。卒業生の会で役員をしているうちに大学理事になり、2017年6月に理事長に選任された。国分寺キャンパスの理事長室に後藤^四郎氏を訪ねて現代の大学のようすを垣間見た。次は大学を理解するために調べたことである。高等教育を受ける者が同世代の8割になっている。大学の社会に果たす役割ということでは、教学と経営の双方相まっての大学運営と大学経営に叡智と手腕が求められる。

 高等教育就学者の統計がでてくるのは1895(明治28)年からである。同年の当該年齢に占める高等教育機関への在学者数は0・3%であった。1905(明治38)年は0.9%。1915(大正4)年は1%。1925(大正14)年は2.5%。1935(昭和10)年は3.0%。1950(昭和25)年は6.2%。1960(昭和35)年は10.2%。1961(昭和36)年は10.2%。高等教育機関の数は1895(明治28)年63校、1962(昭和37)年は565校。同年ころは高等教育機関の60%を私立が占めていた。

 1895(明治28)年の全生産人口に占める高等教育機関への在学者数は0.1%であった。同じく中等教育機関は0・2%、初等教育機関は15・6%、不就学者は84.1%。1935(昭和10)年は上に同じように1.6%、9.2%、82.1%、7.1%。以上は文部省発表の資料による。文部省は学校教育とりわけ高等教育の就学率の生産性向上に寄与することを説くことを企図してこの資料を作成している。

 富国強兵のために国民の初等教育機関への就学が強く推し進められたことにより1895(明治28)年の全生産人口に占める不就学率84・1%が、1935(昭和10)年には7・1%にまで減っている。規律と読み書きソロバンの初歩ができていなければ兵士として鍛え上げることができないからだ。1925(大正14)年には20.0%まで不就学率が減っている。国を挙げて初等教育の普及につとめた。現在の高等教育就学者向上政策は生産性向上よりも選挙目当てのようでならない。

日本計量新報 2018年1月21日 (3179号)

動的状態で計量するハカリの検定への一考察

かつては、度量衡器のすべてが検定の対象になっていた。それが取引と証明に係らないものでも検定の対象になっていた。計量法は検定の対象器種を縮小する改正をした。検定が求められるのは取引または証明に係る計量の分野であり、商取引やそれらに関わる証明や医療関連の分野ということである。現在でも検定が求められるのはこれらの分野であり、そこで使われる計量器の種類は、現在の計量法の分類では18器種である。これらは特定計量器と呼ばれる。特定計量器に含まれる計量器でも検定を実施するものとそうでないものがある。

 特定計量器のなかで、電力量計、ガスメーター、ガソリン計量器、水道メーター、体温計、血圧計、ハカリ(一部を除く)などは検定を要する計量器である。現在、これらの器種のほとんどを計量法はメーカーが自己検定できる仕組みにしている。メーカー自己検定のため技術要件が定められており、制度は円滑に運用されている。メーカー自己検定に関する今後の問題は地方公共団体などによる実施内容の監査能力の保持である。
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 ハカリは現在は静止状態で計量する非自動ハカリと動いている状態で計る自動ハカリに分類されていて、昨年秋の計量法の政省令改正によって自動ハカリのうちの4器種が検定の対象になった。4器種は国際法定計量機関(OIML〔オー・アイ・エム・エル)〕の勧告文書で技術基準等に関する要求事項が規定されているものであり、この規定がない自動ハカリは、当面検定はしない。自動ハカリの検定は、従来より要件を緩和した指定検定機関が実施する。民間の事業者が申請する仕組みである。

 ハカリはすべて検定を実施していた時代があった。その時期にはホッパースケール、パッカースケール、ベルトコンベアスケールなど現代でいう自動ハカリの検定が実施されていた。すべての都道府県で実施したかどうか不明であるが、京都府では表記のような自動ハカリを製造するメーカーがあることから京都府計量検定所では検定を実施していた。

 自動ハカリは器差などを調整しながら動作させるという性質をもっていることから、検定時の性能としての器差が1年あるいは3年という検定の有効期間の意味をもつ定期検査期間(当時)まで維持され難いことやさまざまな要件を考慮して、検定対象器種から除外された。検定を実施するのは静止状態で計量する非自動ハカリであり、動的状態で計量する自動ハカリは検定をしないことにした。通産省計量課のもとに計量研究所、計量検定所、計量検査所ほかの人々が集まって議論した結果の措置であった。このことについては計量法と計量行政に関する知識と技術で当代随一である京都府計量検定所の元所長の西田貢氏(計量士)が詳しい。

 検定対象となって指定検定機関による検定が実施されるようになっても自動ハカリはこれまでと同じように器差などを調整しながら使う機械であることは変わらない。使用者が器差調整をしてはならない計量法の規定は自動ハカリに対してどのように対処するか。実質上はある要件のもとで器差調整をしていいことにすることになるだろう。器差調整を別の言葉に言い換えることなどによってか。

 法は人は悪いことをするものだということで悪意による行為を排除するようにできている。このために計量法も実質には計量精度の維持のために器差調整をして使わざるを得ない電気式ハカリのスパン調整という器差調整を認めていない。これをした場合にはそのハカリは再検定して使用しなければならない。トラックスケールなどの大型ハカリなどで2年に1度の定期検査の実施にあたって誰かが器差調整をして、その上で定期検査を受検している事例も見受けられる。そのようにしている事例もあればそうでないこともある。

 行政機関や法令関連の民間活力の活用という言葉、つまり「民活」は眉に唾と受け止めなければならない。計量行政においても同じことで「民活」としてつくられた指定定期検査機関によるハカリの定期検査の実施業務によって潤っている事業者はいない。定期検査業務を指定業者に移した後に地方計量行政機関は組織人員を極度に削減してしまった。その後相当の年数を経て現在にいたると当事者能力を喪失した計量行政機関が垣間見られるようになった。

 指定定期検査機関の職員の処遇は劣悪の度合いを増している。年齢が増すのに応じた処遇ができない状態にある。老齢の役所などのOB計量士の雇用によって運営する指定定期検査機関がある。OB計量士を雇えるところはよいとしてそれができない県は多い。若い職員のなかには指定定期検査機関(計量協会など)の給与だけでは生計が成り立たないから夜には別の仕事をしている人がいる。これはOB計量士の雇用方針をとっている事業責任者の証言である。

 役所が設備と人をそれなりに用意して処遇をしてきた計量公務員の仕事を指定定期検査機関に移したことによって生じたのはこのような現象である。都道府県職員の処遇が指定定期検査機関職員のようになっていないから不公正だ。もっとも役所を立ち入ってみると非正規職員が尋常でない勢いで増えている。処遇されない生産労働人口と生活費、子供の養育費などが重ね合わさって日本の人口は第2次世界大戦直後の7000万人に向けて減っていく。

 計量行政において指定定期検査機関の運営はこのままでは行き詰まる。非自動ハカリの検定に係る指定検定機関制度の運営の正否の鍵は、ある団体が実施している計量器の検査事業における「何とも高い」と思わせるほどの手数料が設定されることである。そのこととあわせて考えられることはメーカー自己検定制度の成功の事例に学んで、自動ハカリの検定もメーカー自己検定制度に似た内容を取り込むことではないか。

 「安心と安全」と抽象的に述べるだけの役所は信用ならない。計量行政分野における安心とはどのような条件を整えることなのか。「安心」という言葉を使わずに条件となる要件を具体的に並べて述べなければならない。「安全」にしても同じである。

日本計量新報 2018年1月28日 (3180号)

田中舘愛橘の志賀潔と中村清二への教え方

北海道の就学前の女児が質問した。「蝶の蛹(さなぎ)は凍っても死なないのですか」と。回答は凍らないで冬を過ごすのだ。問答はそこまでだった。しくじって凍った蛹は死ぬ。たいがいは凍らないようにして越冬するのだろう。恐らく氷点下10℃ぐらいなら凍らないのだろう。カマキリの産卵位置はその年の降雪量を示すという。そうであることが多いのだろうが、そうであるように理解したがるのが人である。軒下に産卵するカマキリを賢いというのだろうか。

NHKは冬休みラジオ子ども電話相談室を初めて開設した。宇宙・天文のこと、科学のこと、ロボットのこと、恐竜のこと、動物のこと、植物のことなど子供の関心ごとを題材として取り上げた。恐竜のほとんどは図鑑をよく読んでいてそれを丸ごと暗記している児童が多くて、恐竜の名前と行動様式のことをすらすらと語っていた。夢は何かと聞かれると恐竜を研究する人になることだという。

 恐竜と宇宙のことを質問する児童はみなこまっしゃくれている。観察の要素がからむ蛹が凍らないかという女児は素朴であり事実に即して考えている。そのようなことが多いようだ。覚えたことを際限なく喋っている人がいる。新しい知識の修得はわずかでほとんどが昔仕入れた知識であり、それをのべつ幕なしにしゃべる。大学の教壇に立っている者にこのような人がいる。精神科医の故北杜夫が描く病院にもいる。20年前の筆記ノートが受け継がれていてそれを写して試験の回答にする。どこかにある知識を仕込んでそれをひけらかすように講義しているのだ。その知識は本に載っている。そしてインターネットにはもっと深い知識が盛り込んである。「教育者」とは何であろうか。
20180128
志賀潔(しがきよし)はプロペラーが風洞で発生させる渦をプロペラーの指定の位置で直接写真乾板上に撮影することを命ぜられた。命じた先生が夜中に実験室に現れて「実験のあの先はどうだったか」と尋ねる。腹が減っただろうからと焼き芋を持ってきて自分も食べて、芋の皮を扇風機の前に投げ込んで風洞のなかを飛んで行くのを喜んで見ていた。「あの時に僕は実際に困ったが幸いにどうにか漕ぎつけた。放電発光を電気回路に組み込んだインダクタンスの量で任意に加減することを指示されたのだったと気付いて、あのときにインダクタンスという概念がわがものになった」と志賀潔は述べている。 

中村清二(なかむらせいじ)は述懐する。先生から対数表を使って計算することの意義を初めて聞かされてハッと驚いた。計算をおこなうにあたって要求するところの精度に順応するように対数表ができている。それが計算尺の目盛りの刻み方でもよくわかる。たとえば同じ10という数でも10と20のところと、80と90のところの10とでは大きな相違がある。それが計算尺をみれば10から20までの距たりは大きくて、80から90までの距たりはまことに小さいのが明瞭であろう。これが計算尺、対数表のよいところ。このように物事を大局から達観するような態度の大切さを種々教えられた。そこに先生の学問の偉さというものがある。根底のある人でないと、あんなことは言えない。先生は器械のような講義はなさらない。

これらのエピソード中村清二『田中舘愛橘先生』(中央公論、1943)にある。志賀潔は赤痢菌の発見者として知られ、朝鮮総督府医院長、京城医学専門学校校長、京城帝国大学総長などを歴任。中村清二は東京帝國大学理科大学教授、文化功労者。

子ども電話相談室の回答者にも田中舘愛橘(たなかだてあいきつ)のように学生に深い同情を寄せ、ともに考えるという人がいるし、単純に知識を提供するだけの人もいる。教えとは何であるか考えさせられる。

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