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2019トップインタビュー

株式会社チノー 豊田三喜男社長に聞く 

スピードアップで飛躍はかる

聞き手は高松宏之編集部長

日本計量新報 2020年1月1日 (3270号)16〜17面掲載

スピードアップで飛躍はかる

◎製品開発に取り組んだ


−−簡単に自己紹介をお願いします。  

私は1981年に入社以来、ずっと開発畑を歩んできました。当時、埼玉県上福岡に技術センターがありまして、そこに配属になり、計装システムの遠隔監視用に使用する新製品開発に取り組みました。また、当時まだそれほど普及していなかった熱画像製品の開発にも取り組みました。その後、ネットワーク関連機器や記録計、調節計などの開発にも取り組んできました。  

生産の拠点である藤岡事業所関連の機器開発に携わってきたこともあり、藤岡事業所の開発部長から所長を経て現在に至っています。

◎業績は好調

−−チノーの業績は好調ですね。

■上方修正の売上目標をクリア  

当社の現況からお話しします。  昨年度前半の日本経済は、米中経済摩擦の影響も小さく、半導体や電子部品関連の各企業の設備投資も活況でしたので、それに貢献することができました。  昨年の11月、連結で214億円という当初の売上計画に対して、217億円に上方修正をいたしました。全社一体となっての改善改革活動も功を奏し、売上および営業利益ともに計画をクリアすることができました。  ただ昨年度後半からは世界経済が不安定で不透明になり、設備投資をやや控える企業も出てきています。産業によっては好調を維持しているところもあり、全体的には”まだら模様”になっている感があります。

■中期経営計画で事業を推進  

当社は、2019年3月期から2021年3月期の3年間の「チノーグループ中期経営計画2020」を掲げ、その目標に向かって事業を進めています。  今年度も中計の基本戦略を基本にして、計画を達成する活動で社会貢献することにより、さらに成長していきたいと思います。

◎成長分野で需要開拓

−−これから力を入れていくのはなんでしょうか。  

既存コア事業の強化はもちろんのこと、今後における成長産業に対しても付加価値をつけたシステムや製品および技術を提案する事業を進めています。  

半導体・電子部品、二次電池、新素材、医療医薬管理の成長市場と、4つの市場に連関するIoT分野や産業の裾野が広い航空機・自動車分野に対して、温度に関わる計測・制御・監視分野の製品・サービスの提案活動を生産・販売・開発部門が一体となって展開し、需要開拓を推進しています。  

IoTに関しては、まだまだ当社のお客様の現場では様々なご提案ができると思っておりますし、成長産業においても、品質向上や生産性向上等での課題に対して、温度を軸にした製品やシステムを提案し、課題解決に貢献させていただきたいと思います。

■品質関連のマネジメントに温度管理で貢献  

最近、特に品質関連のマネジメントに各企業が注意深くなっています。  

たとえば医療医薬分野ですと、GDP(Good Distribution Practice、医薬品の適正流通基準)ガイドラインが発出されています。  

医薬品の品質は人命に関わるものですので、製造時における品質管理はもちろんのこと、輸送・保管中にも厳密な品質管理が必要です。出荷後、薬局、医薬品販売業者、医療機関に届くまでの医薬品の仕入、保管及び供給業務に適用し医薬品の品質を確保することを目的とした基準がGDPです。  

ここに当社の温度管理技術が貢献できます。当社では医薬品の保管や輸送における温度管理や温度管理装置の校正等に適した製品・サービスを用意していますから、設備の規模や用途により最適なご提案が可能です。  

温度マッピング、定期校正等のサービスも実施していますので、トータルで医薬流通の温度管理をサポートすることができます。  

自動車関連ですと、自動車産業の品質マネジメントシステム規格であるIATF(International Automotive Task Force)に、「熱処理工程」の適切性および有効性を評価(監査)する方法をまとめたCQI−9(特殊工程:熱処理システム評価)があり、当社の技術を有効に活用いただけます。  食品関連でも同様です。製造、保管、流通におけるすべての温度管理において、当社の技術が貢献できます。

◎温度技術を軸に

■温度標準を国内外に供給  

当社のコア技術は温度です。正確に温度を測定するためには、使用する機器は統一的な基準で校正されていなければなりません。当社は産業技術総合研究所のご指導のもと、温度標準用のセンサや校正装置を国内はもとより、海外の標準機関や校正事業者に対しても多くの実績があります。  この技術力に裏打ちされたブランド力をグローバルに展開していきたいと思っています。

■デジタル技術とセンシング技術を結びつける  

IoTに関してですが、現在、400〜500億ほどのデバイスがインターネットによって結ばれているといわれています。そして5Gという次世代高速大容量の通信規格とインフラの整備および電子デバイスの発達により、近い将来それが1兆個と膨大な数のIoTデバイスがつながると予想されています。  

このIoTデバイスの先には必ずセンサが必要になります。このセンサにおいて温度というのは非常に大きなウエイトを占めています。そのなかで、デジタル技術と当社のセンシング技術を上手に結びつけてIoTデバイス化することによって、ビジネスチャンスが広がっていきます。

■半導体・電子部品産業への貢献  

IoTには、半導体や電子部品は欠かせません。これらの産業に対しても当社の温度に関わる技術でより一層貢献できると考えています。  そのためには、お客様のニーズや要望や課題をきちんと把握していく必要があります。

◎グローバルでチャンス活かす

−−現在の世界経済の状況をどのように捉えていますか。

■貿易摩擦は複合問題  

一言で言うと「不透明」ということです。米中の貿易摩擦が注目されていますが、これは単なる貿易の不均衡問題ではなく、もっとグローバルに安全保障に関わる技術や特許技術の流出なども含んだ複雑な問題であるだけに、一企業としてはなかなか見通すことが難しくなっています。

■中国経済を注視  

3月に当社の販売会社(中国との合弁会社)の株主総会に行ってきました。そこでは中国側の関係者は、多くの優秀な中国人の技術者が今後、技術を進展させていくと見ていました。5Gで中国の技術が世界のトップに立っていることなども、その例です。  

中国製造2025などの国策で産業を育成することもこれまで以上に強められるでしょう。つまり、中国にはまだまだ産業発展の余地がおおいにあるということです。  

ただ、米中の貿易摩擦の中で各企業では、グローバルなサプライチェーンの最適化などの検討を進めていますので、中国においても業績見通しの良い企業と悪い企業の差は拡大しつつもあるので、市場の見極めが重要になってきていると思います。  

いずれにしても中国市場というのは世界最大の市場になっていますから、ここから目をそらすわけにはいきません。特に大人口を抱える中国のエネルギー、食品、医薬品関連市場は、当社が積極的に関わっていける分野ですから、きちんと分析して、チャンスを活かせるように適切な対応をとっていきたいと考えています。  

韓国経済は少し心配ですね。

◎インドも好転

■インドでは記録計、熱電対を生産  

インドの子会社では現在、製品の生産および販売をしています。  

生産品目としては、ペーパーレス記録計や熱電対は以前から、また紙式の記録計を最近から生産しています。従来は、紙式の記録計は繊細な生産技術が必要であることから、なかなか現地生産が難しかったのですが、製品設計の改善や生産設備の増強およびローカルスタッフのスキルアップなどにより、現地で生産、調整、検査までを一貫しておこなえるようにしました。  

中国に続いてインドも、地産地消にしていくということで事業拡大を進めています。  

インド市場には日系企業が1500社ほど進出しています。当社の取引先企業も多く進出していますので、機器の更新やメンテナンスなどもさせていただいています。  

また、現地の企業にニーズに合った製品も提供しています。  当社は早くからインド市場を手がけています。独資化してから10年ほどになります。いろいろ苦労もありましたが、おかげさまで良い状況になっています。タイでは、日系企業のシステム関連を中心にした校正サービスやメンテナンスも伸ばしていきます。

◎スピードアップが核心

−−新年度の方針に関して、重点項目などをお聞かせください。  私は、開発、改善、改革、顧客への対応など、そのすべてに関してスピードが大事だと思っています。スピードアップが肝です。

■やるべきことをはっきりさせる  

それには、情報をキチンと把握して共有し、それから自分の役割を理解して腹落ちさせ、行動を起こすことが重要だと思います。それがないと、スピードは出ないですね。  

その段取りをどう具体化していくのかが、経営の課題です。  口で言うのは簡単ですが、必然的に課題解決する具体的な行動に落とし込んでいく必要があります。

■しくみもシンプルに  

さまざまなしくみも、皆がすぐに理解し行動できるように、シンプルにする必要があります。

◎高品質・新技術の製品でニーズを掘り起こす

■統一性・利便性を維持しながら新製品を開発  

ものづくりに関していうと、現在当社で使用する電子部材の調達は、山形事業所が担当しています。  

山形事業所で部材を集めて、プリント板に仕上げます。それを藤岡事業所や久喜事業所で組み立てます。形式によっては中国の生産子会社にも送っています。  

その部材は膨大な数にのぼります。ですから、生産計画や新製品の開発計画を立てたりするのはかなり大変です。生産中止部品による代替品への変更や、また設計変更などによる部品変更もあります。  

このように、部材の点数や形式を維持管理するのはとても大変です。当社の製品はかなり長期間にわたって使っていただく場合もありますから。お客様の利便性を考えると、製品の使い方の統一性を維持するという課題もあります。当社は現場に密着したビジネスをしていますので、それもケアしながら新製品の開発も進めなくてはなりません。

■高品質製品の提供  

一番大事なことは、品質面でしっかりした製品をお客様に提供していくことです。

■先端技術に着目  

1990年ぐらいから産業分野においてパソコンが計測監視制御システムとして使われるようになりました。当時は、パソコンのような不安定で信頼性がないものは使えないという声も強くありました。  

しかし、今では多くの現場でパソコンが大活躍しています。  

このように、現在「これは使えない」といわれる技術であったとしても、お客様の現場ニーズによっては将来当たり前のように使われる技術もありますので、色々な新技術に着目していく必要があります。  

スマホの利用や無線技術など、計測器に使用する周辺機器や技術も増えてきています。当社が早くから取り組んでいる無線技術も、使い方や使う場所では大きなイノベーションとなっています。

■コミュニケーション力を強化  

お客様自身が気づいていない潜在ニーズを掘り起こしていくことが重要です。そのためには、お客様の課題を解決する技術を会社として身につけるとともに、様々なお客様に提案できるコミュニケーション力を強化しなくてはなりません。  

また、当社はOEM製品も数多く手がけています。開発段階から相手先企業とよく関わって、最適な製品を開発して信頼を得なければなりません。  技術と営業が一緒になって、潜在ニーズの掘り起こしと提案力アップに注力していきます。

◎ビオトープを充実

−−チノーはビオトープにも力を入れておられますね。  

ビオトープとは、地域の生態系や野生動植物を保全することを目的に、人工的に自然を復元した場所のことです。  

2010年に生物環境の保全と、地域に失われつつある自然を復元し、昔ながらの自然豊かな関東平野の里山を取り戻すことを目的に、藤岡事業所の一角にあった休耕田を活用して「チノービオトープフォレスト」を整備しました。  

地域の方々に当社のビオトープをご理解いただくと同時にコミュニケーションを深める機会の場として、ビオトープ内の伐採したコナラを活用した原木シイタケ栽培体験やビオトープを活用したイベント、さらには環境学習等、地域との連携を深める取り組みを継続して実施しています。  

また、群馬大学にはビオトープの育成管理に関する研究の場としてご活用いただいています。学生さんはビオトープ内の植物相のモニタリング調査を定期的に実施し、研究の成果は、卒業研究として論文にまとめられ、毎年社内でも発表会を開催していただいています。また高崎経済大学とも同じように連携させていただいています。  

季節に応じて「さくら祭り」や「ホタル観賞会」などを開催し、地元の小学生は授業の一環としてビオトープで生息する「生きものさがし」や「どんぐり拾い」を実施するなど、地域にビオトープを開放しています。  

2016年には、緑化優良工場等関東経済産業局長賞を受賞しました。


−−ありがとうございました。 

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