日本計量新報 2015年9月13日 (3072号)4面掲載
チューナーを見ながらチェロを弾く
元産総研・元長野計器 倉橋正保 |
チェロを始めて6年余りが経過した。コンピュータ作業をした後にチェロを弾くことが多いためか、楽譜を見続けると目が疲れて30分ともたない。目の疲れを軽減するために練習時間の半分は目を閉じて暗譜で弾ける曲にしている。
あるとき楽譜の代わりに、3000円程度の電子チューナー(図1)の針を見ながら弾いてみてショックを受けた。音程のずれが激しいのである。ネットで調べるとチューナーを過信してはいけない、音叉を信用せよといったことが書いてあった。そこで、55年程前に購入した音叉(440Hz用)を取り出し、日頃使っているチューナーの校正をおこなった。チューナーを440Hzに設定し、内蔵のマイクで音叉の音を拾うと針は計器の中央を示した。チューナーを442Hzに設定し同様のことをおこなうと、針はマイナス8centずれた。(この音域では1Hzが4centに相当する:centとは半音の1/100の単位である)。プロの演奏をチューナーで調べると、10cent以上ずれていることもあるが、概して20cent以内に収まっている。私の場合のずれは30cent以上にも達した。声楽の練習をする人もカラオケの練習をする人も私が持っているレベルのチューナーを利用していることを知った。
私がチェロを始めた時、調弦にチューナーを使用するように先生から教えられた。コンサート会場でチェリストがピアニストからAの音をもらい残りの弦を周波数比3:2の共鳴を利用してチューニングしているが、私は共鳴を利用したチューニングはしていない。時々わが家でピアノとチェロ、バイオリンとチェロの合奏をするが、幸いわが家のピアノのA音は442Hzなので、チューナーの設定を442Hzにあわせた後に、チューナーの針を見ながら残りの弦のチューニングをしている。管楽器やプロの音楽家用には“ノード クロマティック・ストロボチューナー”というのがあって高価だが複数の音を同時にチューニングできる。
最近、私がビオラを弾いているビデオが見つかった。定年退職して2年程経った頃、バッハのチェロ曲に魅せられ、バイオリン(学生時代に弾いていた)の延長線上で弾けるビオラを始めた。チェロの音域に近づけるために本来よりも低い音に調弦して弾いていたのである。サンサーンスの白鳥やバッハの無伴奏チェロ組曲第1番、第3番、第6番のプレリュード等を弾いていた。このようなものがあることをすっかり忘れていた。さらに驚いたのはバッハのシャコンヌという難曲をも弾いており、決して上手な演奏ではないが、貴重な思い出になる。チェロを始めてからも、1年に1度程度は演奏の記録を残してきた。7年目を迎えて現在の腕前をビデオに残しておきたいと思った。ここ数年はハイビジョンカメラを利用していたが、今回はウェブカメラを利用した。演奏した直後に再生できるというメリットがある。
私が弾く曲は、3分程度の長さのものが多いが、ビデオ撮りをするとなると緊張するのか3分をノーミスで弾くのは難しい。何度も何度も弾き直すが満足な演奏はできない。そこで間違えた部分を弾き直し、後日編集でつなぎあわせようと思っている。音程のずれも25cent以下に収まるようにしたい。カラヤンがレコーディングの際に、一通り演奏した後、気になる部分を再演奏して、編集しておけと言い残して帰ったそうである。一方ライブ録音にこだわる演奏家もいる。長い曲を、一発勝負でレコーディングをする人を尊敬する。 |